前払費用を即時に経費にできる条件をご紹介します
- 2020年8月6日公開

大きな利益が出ており、多額の法人税が発生する見込みの会社では、期末に駆け込みで経費を立てて、法人税額を減らそうとする事がよくあります。
典型的には、家賃等をまとめて前払いする(前払費用といいます)ケースです。
しかし、実際には、前払費用を支払ったタイミングで全額経費とするには一定の要件を満たす必要があります。
仮に要件を満たさない場合には、前払いによるキャッシュ・アウトが先に来るだけで、法人税額は減らない事となり、前払いする意味はない(むしろ逆効果)と言えます。
この記事では、前払い費用とは何か、どういったものがこれにあたるのか説明した上で、前払費用を全額経費計上できるかどうかの条件をご紹介します。

桐敷匠

最新記事 by 桐敷匠 (全て見る)
- 住宅ローン控除の具体的な節税効果と適用条件 - 2021年5月5日
- オペレーティングリースとは?優秀な節税商品だがリスク有り - 2021年5月5日
- 事業再構築補助金とは?最大6000万円の支援を受けよう - 2021年2月16日
1. 前払費用とは
前払費用とは、継続してサービス提供を受ける場合における、サービス提供前に支払われた対価のことです。
本来、法人税上の考え方では、サービス提供を受けたタイミングで経費計上するため、前払費用については、支払ったタイミングでは全額経費にすることはできません。
ただし、一定の条件を満たす前払費用は例外的に支払タイミングでの全額経費計上が認められています。
これはなぜかというと、短期間かつ等質・等量のサービスに関しては、ごまかしようがない事や出費が明白かつ確実である事から、事務負担を考慮して特別に容認するという趣旨です。
前払費用のうち、支払タイミングでの経費計上が認められるものは、例えば家賃や保険料等です。
逆に認められないものは税理士顧問料等です。
税務顧問は等質・等量のサービスとは言えないためです。
以下では、家賃や保険料等の前払費用を全額経費計上するための条件を説明します。
2. 前払費用を全額経費計上するための条件
前払費用を全額経費計上するには、以下の4つの条件を全て満たす必要があります。
(1)決算月に支払ったものであること
(2)次期以降も継続適用すること
(3)前払いの期間が1年以内であること
(4)収益との直接的な対応関係がないこと
以下、各条件の詳細及び注意点を説明します。
(1)決算月に支払ったものであること
支払日は決算月である必要があります。
翌月支払いは当然NGとして、決算月の前月に支払った場合もNGです。
(2)次期以降も継続適用すること
例えば、当期は家賃1年分を前払いして経費計上したけど、次期は業績が芳しくないから前払いをやめる、と言ったことはできません。特に金額が大きい場合は資金繰りに悪影響が出ますので、今後も前払いを続けていけるのか慎重に判断する必要があります。
(3)前払いの期間が1年以内であること
1年を超える前払費用は出費が確実とは言えない(途中解約による返金等が有り得る)ため、支払タイミングで全額経費計上する事はできません。
(4)収益との直接的な対応関係がないこと
例えば、借入を原資に金融資産などで資産運用している場合、借入金利子は運用収益と直接的な対応関係があるとみなされるため、たとえ利子を前払いしたとしても支払タイミングでの経費計上はできません。
ただし、家賃、保険金等の一般的な前払費用に関しては、収益との直接的な対応関係が無い事が通常ですので、この条件が問題になることはありません。
まとめ
本記事では前払費用をすぐに経費計上できる条件についてご説明しました。
条件を満たさない場合はせっかく前払いをしたとしても税金対策にはなりません。
実際に前払いをする前に、顧問税理士とよく相談をするようにしましょう。
関連記事
-
税金対策として、中古自動車を購入すると良い、という話を聞いたことがあると思います。 しかし、そのしくみを分かっていないと、税金対策したつもりが、まったく効果がないどころか、むしろ損をしてしまうリスクがあります。 そこで今回は、中古自動車を購入することが
-
会社から役員に対する報酬は、毎月の定額報酬ではなく役員賞与として受け取った方がお得という話を聞いたことは無いでしょうか。 この話は、場合によっては事実と言えます。 支給額の水準によっては、社会保険料が抑えられ、その分だけお得になるケースがあるからで
-
個人事業主の方は、原則として確定申告をする必要があります。 所得税の確定申告には、青色申告と白色申告があり、青色申告の方が有利だということは、多くの方がご存知だと思います。 ただし、どのくらい青色申告の方がお得なのか、どういう方に青色申告が認められ
-
定番として取り上げられる節税策の中に、倒産防止共済が挙げられます。 (経営セーフティ共済とも呼ばれます) 倒産防止共済は中小企業の連鎖倒産防止を趣旨とする共済ですが、実務においては節税策として使われることもよくあります。 しかし実は、倒産防止
-
小規模企業共済は絶対入るべき!3つのメリットと知っておくべき注意点
小規模企業共済は、中小企業の役員や個人事業主の方で、所得税・住民税を節税したい、老後の資金の効率的な準備をしたい、と悩んでいる方におすすめしたい制度です。 手元に残るお金は、年収が800万円の場合、例えば毎月7万円の掛金を20年かけると、共済をやった
-
持ち家を買うと「住宅ローン控除」により所得税が下がるという事は皆さんもよくご存知と思います。 住宅ローン控除は、数ある所得税の控除制度の中でも節税効果の非常に大きな制度です。 しかし、住宅ローン控除の具体的な内容までは不動産会社等から説明されないこ
-
大きな利益が出ており、多額の法人税が発生する見込みの会社では、期末に駆け込みで経費を立てて、法人税額を減らそうとする事がよくあります。 典型的には、家賃等をまとめて前払いする(前払費用といいます)ケースです。 しかし、実際には、前払費用を支払ったタ
-
貸倒損失とは、売掛金が回収できなかった時に、費用として処理する方法です。 得意先から売掛金が入金されない事態となった時、まずは回収する努力が必要です。 それでもどうしても売掛金の回収ができない場合、売掛金の貸倒損失を損金算入できないかを検討しましょう。
-
経営者の皆さんは、節税商品として「オペレーティングリース」の紹介を受けたことはありますか。 オペレーティングリースのよくあるスキーム図では、登場人物が込み入っており、結局何をしているか、初見ではなかなか分からないと思います。 この記事では、オペレー
-
貸倒引当金とは、売掛金の回収できない金額を事前に見込んでおいて、費用処理することです。 売掛金の回収が既にできなくなっている場合は貸倒損失を計上することにより、税金を減らすことができます(詳しくは「貸倒損失とは?回収できない債権を費用化できる条件」を