貸倒引当金とは?回収不能になりそうな債権を費用化する条件
- 2021年1月9日公開

貸倒引当金とは、売掛金の回収できない金額を事前に見込んでおいて、費用処理することです。
売掛金の回収が既にできなくなっている場合は貸倒損失を計上することにより、税金を減らすことができます(詳しくは「貸倒損失とは?回収できない債権を費用化できる条件」をご覧ください ※リンク)。
これに対し、今回は、まだ回収不能に陥っていない段階で貸倒引当金を計上する事により、貸倒損失よりも早く費用処理できるケースの話です。
すなわち、貸倒損失は売掛金の貸倒が確定したタイミングで計上するのに対して、貸倒引当金は貸倒が確定する前のタイミングで見込み計上する事になるということです。
ただし実際には、貸倒引当金の計上は経営者の独断で行うことはできず、税法で定められた要件を満たす必要があります。
この記事では、貸倒引当金の計上により税金を減らすことができる理由をご説明します。
また合わせて、計上が認められるために、どのようにすればよいのかについて説明します。

桐敷匠

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1. はじめに:貸倒引当金とは
貸倒引当金の計上とは、売掛金の回収できない金額を事前に見積もって、見込みで費用処理する事です。
本来、税法上は将来かかることになる費用を事前に予測して計上することは認められていませんが、貸倒引当金は例外的に計上が認められています。
ちなみに、このような例外措置は徐々に廃止されてきました。
直近では平成30年度税制改正で返品調整引当金が廃止されており、現在は貸倒引当金だけが残されています。
2. 貸倒引当金計上により税金を減らすことができる理由
貸倒損失を計上すると、その分費用が発生し、費用の分だけその年の所得が減少する事となります。
法人税や所得税は所得の大きさによって税額が決まりますので、所得が減少すれば税額も減少する事になります。
3. 貸倒引当金を計上するための要件
回収見込みのない債権に対して貸倒引当金を計上する要件は主に3つあり、いずれかを満たせば計上することができます。
(1)破産手続開始の申立て等
(2)取立て等の見込みがない場合
(3)弁済猶予等があった場合
ただし、(2)(3)は実質的に貸倒損失の計上要件と同じですので、実際に貸倒引当金の要件として利用価値があるのは (1)だけです。
(1)に関して貸倒損失と貸倒引当金の要件を比較すると、以下の通りです。
貸倒損失:破産手続の終結等
貸倒引当金:破産手続開始の申立て等
破産手続開始の申立てを行うような会社であれば、実際には回収不能の可能性が非常に高いです。
ただし、手続終結には時間がかかりますので、終結を待たせるのは酷だということで、貸倒引当金の計上が認められています。
この時、貸倒引当金の計上が認められるのは貸倒見込み額の50%までです。
これは、貸倒損失にまで至っていないのに損金算入を認める代わりに、額を限定しているものと言えます。また、恐らく、実際には破産会社の残余財産が少し分配されるので、暫定的に50%としている面もあると思われます。
残り50%のうち、分配されなかった部分については破産手続終結等のタイミングで費用処理することになります。
3.1. 危険性が低い債権でも貸倒引当金を計上できる
実は、貸倒の懸念の低い債権についても、一定割合で貸倒引当金の計上が認められています。ただし、こちらはそこまで効果がありません。
なぜなら、確かに貸倒引当金を計上した年度ではその分だけ所得が減少し、税額が下がる事となります。
しかし、貸倒が発生しなければ貸倒引当金の計上額を翌年度に取り崩すことになり、その分だけ翌年度の所得が増加して税額も増える事になります。
まとめ
売掛金の回収が難しくなった時は貸倒損失、または貸倒引当金を計上することで節税できないか検討しましょう。
貸倒損失は全額損金計上できますので、まずは貸倒損失を計上できないか検討して下さい。
(貸倒損失の計上要件はこちらの記事をご参照ください。)
貸倒損失の計上が難しい場合、買倒引当金の計上を検討しましょう。
貸倒引当金は、貸倒損失に至っていなくても損金算入が認められる代わりに、損金算入可能額が貸倒見込み額の50%までと限られています。
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