経営革新計画とは?メリットと承認を受けるためのポイント
- 2020年9月15日公開

経営者の皆さんは「経営革新計画」制度をご存知でしょうか。
中小企業が作成した経営革新計画を都道府県等の公的機関が一定の基準の下で審査し、承認する制度です。
承認が下りた企業は融資や税制、補助金申請などで様々な特典を受けることができます。
特に大きいのは、「ものづくり補助金」の審査時に加点を受けることができる事です。
「経営革新計画」と「ものづくり補助金」とでは、事業計画等、申請書類の使い回しができる事から、ものづくり補助金申請の前哨戦として経営革新計画の承認を目指すケースも多いです。
ただし、承認時の特典は確かに大きいものの、審査において計画の実現性等が厳しくチェックされますので、経営革新承認を勝ち取るまでの道のりはそう簡単なものではありません。
このため、中小企業診断士や税理士などの専門家の力を借りることが多くなっています。
しかし、その場合でも、自ら制度のエッセンスをきちんと理解しているかどうかで、出来上がる計画には大きな違いが出てきます。
そこで、この記事では、経営革新計画作成方法のエッセンスをお伝えします。

桐敷匠

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目次
1. 経営革新計画とは
本制度は「中小企業等経営強化法」という法律に基づくもので、この法律では、以下の2つの要件を満たすものを「経営革新計画」として定義しています。
・既存事業とは異なる新事業に取り組む事
・経営の相当程度の向上を達成する内容である事
審査では、作成した計画がこれらの条件を満たせるかどうかを問われる事になります。
それぞれ詳しく説明します。
1.1. 既存事業とは異なる新事業に取り組む事
具体的には以下のいずれかに取り組むことが必要です。
平たく言えば、「新商品・新サービスの開発」、ないし「既存商品・既存サービスの生産・販売・提供方法の見直し」が必要です。
・新商品の開発又は生産
・新役務の開発又は生産
・商品の新たな生産又は販売の方式の導入
・役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動
1.2. 経営の相当程度の向上を達成する内容である事
こちらの条件では、具体的な数値目標が以下の2つ設けられており、それらを両方達成する事が求められます。
・「付加価値額」又は「一人当たり付加価値額」の伸び率
・経常利益の伸び率
付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費
一人当たり付加価値額=付加価値額÷従業員数
経常利益=営業利益-営業外費用 ※営業外収益は含みません
経営革新計画は3年~5年から選択する事が可能で、選択した年数により数値目標は異なります。
付加価値額又は一人当たり付加価値額の伸び率 | 経常利益の 伸び率 |
|
3年計画 | 9%以上 | 3%以上 |
4年計画 | 12%以上 | 4%以上 |
5年計画 | 15%以上 | 5%以上 |
1.3.1. 数値目標のハードルはそこまで高くない
数値目標、特に付加価値額はそこまでなじみのある指標ではありませんので、伸び率の基準を見てもぴんとこない方が多いのではないでしょうか。
ハードルの高さは業種等にもよるものの、新商品開発等、革新をするわけですから、実際にはそこまで高い基準ではありません。
数値の感覚が分かるように、具体的な数値例をご紹介します。
(実際の事業計画を参考にしていますが、実在する企業のものではありません。)
経営革新前 | 経営革新後 | 伸び率 | |
売上 | 3,000万円 | 4,000万円 (従来事業3,000万円+新事業1,000万円) |
33.3% |
付加価値額 | 1,600万円 | 2,200万円 (従来事業1,600万円+新事業600万円) |
37.5% |
経常利益 | 300万円 | 500万円 (従来事業300万円+新事業200万円) |
66.7% |
2. 対象事業者
「中小」企業等経営強化法という名前にもある通り、経営革新計画の承認を受けるには規模について以下の一定の条件があります。
・資本金、又は従業員数が一定以下である中小企業、個人事業主等である事(※)
・1年以上営業している事(直近の申告書が必要)
※詳細な要件は東京都等、公的機関のウェブサイトをご確認下さい。
創業1年目の会社は承認が受けられませんのでご注意下さい。
3. 経営革新計画の作成方法
経営革新計画の審査においては、上述した数値目標が確度をもって達成できるかどうか厳しくチェックされます。
つまり、かなり具体的な計画を作成する事が求められます。
では、具体性を持った計画を立てるには、どのように進めればよいのか、これから概要をお伝えします。
3.1. まずはテーマ選定
まず最初に、計画策定にあたり、どんな事業に取り組むのかテーマ選定をしましょう。
そのためには自社を取り巻く状況について現状分析をします。
効果的に現状分析するために、SWOT分析、PEST分析、3C等のフレームワークがありますので、これらを活用しましょう。
フレームワークと言ってもそれほど難しくは無いです。
これらのうちSWOT分析は、まず、自社の強み・弱み、外部環境の機会・脅威を洗いざらい書き出して整理してまとめてみます。
ここでいう「機会」とは新規市場、規制緩和などの新たなビジネスチャンス、「脅威」とは市場の衰退、規制強化等の事業上の懸念材料のことです。
それらを踏まえて、次に、どのような手を打つべきか検討します。
例えばある分野で規制が緩和されて新規参入が容易になったが、まだ競合が少ないので、自社の技術力(強み)を活かして新製品を開発する、等です。
3.2. 分野ごとの計画を立てる
テーマを決めたら、テーマを実現するために、分野ごとに大枠で計画を立てます。
ここでいう分野とは、マーケティング、開発・生産、組織、財務、等です。
例えば、新商品の開発と言っても、実現性のある計画とするためには商品を開発し、生産し、販売するまでの計画が必要です。
また、それらを実行するための基盤として組織・財務の計画も必要です。
これらの具体的な計画が揃って、はじめて経営革新計画の実現性が認められ、承認が得られるのです。
以降では、分野ごとの計画の作成方法をご紹介します。
ただし、それぞれを詳しく解説すると膨大な量となってしまいますので、この記事ではエッセンスに軽く触れます。
実際に計画を策定する際は公的機関や中小企業診断士、税理士等の専門家を頼るのもいいでしょう。
(弊社も中小企業庁から「経営革新計画等支援機関」の認定を受けています!)
3.2.1. マーケティング
マーケティングとは「誰に何をどうやって売るのか」を計画し、実行することです。
マーケティング計画時に決めるべき代表的な要素は「製品」「価格」「流通方法」「販売促進方法」とされます。(経営学では、英語の頭文字をとって4Pとよく言われます)
これらの計画方法をごく簡単にご紹介します。
・製品
まずは最初に、「誰に」売るのかを決めます。
ここでは「STP分析」と呼ばれる手法がお勧めです。
これは、業界の顧客をいくつかの顧客層に分類し(Segmentation)、自社はどの顧客層を狙うのか(Targeting)、競合他社に対しどのように戦うのか(Positioning)を検討します。
大企業は全顧客層を相手にする事も多いですが、中小企業は資源の制約があるため、ターゲットを絞るべきです。
ターゲットとする顧客層を決めたら、顧客層の必要とする新商品を構想します。
・価格
次いで、価格を決めます。
これは業界や企業のポジションにもより、一概には言えず、経営者の皆さんの方が詳しいと思いますが、例えば目先の利益を取るのか、シェア拡大を優先するのか、等により決めます。
・販売方法
次いで、販売方法、つまり、顧客にやって商品を届けるかを決めます。
これも経営者の皆さんの方が詳しいと思いますが、代表的には、例えば直販するか、中間の小売業者を介すか、等です。
・販売促進
次いで、販売促進方法、つまり、顧客に新商品をどのように知ってもらい、購入につなげるかを検討します。
代表的には、例えばDM、SEOなど、認知してもらった上で顧客からアプローチしてもらうプル営業、又は飛び込み営業など自らアプローチするプッシュ営業等です。
3.2.2. 開発・生産
マーケティング計画で立てた販売目標を踏まえ、開発・生産計画を立てます。
実際は、生産にはヒト・モノ・設備等の制約があるので、生産計画を元にマーケティング計画の見直しをすることもあります。
3.2.3. 組織
販売、開発・生産に必要な人員をどのように確保するのかを計画します。
既存スタッフを教育するのか、スキルを持った人材を新規雇用するのか、場合によっては外部への業務委託も選択肢になるでしょう。
3.2.4. 財務
マーケティング、開発・生産、組織計画がまとまったら、利益計画・資金繰り計画を立てます。
新商品等を開発しても、利益が出ない事には始まりませんので、しっかり利益が出る計画になっているかを確認します。
また、他分野の計画から、必要な設備投資や人材採用等が分かるはずなので、資金が枯渇する事のないように、それらを元に設備投資、運転資金、借入金等の資金繰り計画を立てます。
特に、補助金は申請から着金まで半年~1年程度時間差があるため、手元資金に乏しい場合は資金の手当てが必要です。
計画策定中に、金融機関等へ借入の相談をしておくとよいでしょう。
まとめ
この記事では経営革新計画の概要、及び計画作成方法のエッセンスをお伝えしました。
経営革新計画は承認時の優遇措置はもちろん、経営革新によって経営が上向き、企業の夢の実現に一歩近づく事ができます。
ただし、承認を受けるためには、設定した数値目標が達成可能であることを、具体的な根拠を持って説明しなければなりません。その際はまず、取り組むべきテーマを明確に決めた上で、それを実現するためにマーケティング、開発・生産、組織、財務等について計画を立てる必要があります。
計画策定は確かに骨の折れる作業ですが、計画策定時や計画承認後のフォローアップにおいても、各種公的機関や専門家のサポートが受けられますので、一度検討されてはいかがでしょうか。
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